都心の大型商業施設にほど近い、旧フランス租界の佇まいを残す一角に、上海音楽院は存在し、そのキャンバスの中ほどに賀緑汀音楽廟は建つ。
賀緑汀(1903-1999)は中国湖南省出身の中国の音楽家で、映画会社の音楽部などを経て、1949年よりこの上海音楽院院長に任につき、その職責を果たしながら、オペラや歌曲など主に声楽曲を中心とした作曲活動を行い、中国におけるクラシック音楽普及の草分けとなった人物。
1984年に上海音楽院院長を退官し、1999年に96歳で亡くなっている。
2003年に完成したこのホールはその長年に渡る中国音楽界への功績を称え名前を冠して建設された。
ホールの形状は、ウィーンの学友協会ホールを模したとされるシューボックス型の長方形で、ステージと客席を隔てる境目はなく、オープンタイプのステージとなっている。
公式の残響時間は1.8秒とされているが、残響感をあまり感じさせないすっきりとした音の仕上がりとなっており、反響音が気にならず、雑味が微塵も感じられない自然な音が伝わってくる。
かといってデッドと感じるほど響きが乾ききっているわけでもない。
しかも客席の前方で聴いても、後方でも聴いても音の味わいが変わらず、ホールの形状や座席位置を忘れてしまうほど音楽に集中できる空間となっている。
ただ、その分だけ演奏家本人の力量が問われるホールでもあり、演奏家としては誤魔化しの効かない怖いホールだとも言える。